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「ねえミル、撫でて」

 

 

 僕は考えるのをやめて目を閉じていた。目を開けると少し起こしたベッドに深く沈みながら、彼女がじっと僕を見ていた。

「ミル」と彼女はその音を確かめるように僕の名前を呼んだ。

「何?」

「ねえミル、唄を歌って」

「いいよ、でも僕は唄を知らないよ」

「いいえ、知っているわ」

 

 僕は諦めて何か唄らしいものを歌おうとしてみた。浮かんだ言葉に音をつけて、それを並べてみた。僕はそれに身を委ねられた。どうしてこんなことができるんだろう。

「鎮魂歌ね」と彼女は言った。

「分からない」と僕は言った。

 

 彼女が何を望んでいるのか、僕には分かった。これは僕のわがままだ。どこまで糸を手繰っていっても、余計にもつれるだけなのだ。

「泣いているの?」と彼女が僕に訊いた。

「分からない」

「何に対して?」

「分からない」

「ミルは優しいね」と僕の髪を撫でながら彼女が言った。「あとになってきっと分かるわ。たくさんの違う人が同じことを言うかもしれない」

 そう言って彼女はにっこり笑った。だから、僕もにっこり笑った。それが終わりの合図だった。

 

 僕は彼女の髪をそっと撫でて、それからまた目を閉じた。廊下から誰かの笑い声が聞こえた気がした。

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